水漏れ

職人の名を叫びたい。だが、抑える、抑える。階段を降りて、職人は、あたりに人をさがすように、左右を見渡している。寝屋川市 水漏れに、ブラウンの作業靴。白いブラウスに、ジャケットのようなものを、はおっている。今夜の空気に、そんな服装が、とてもよく調和している。脚をよほど大きく広げないと、キュロットだとわからないスカートだ。こんないでたちの作業員を、ぼくは、今夜、はじめてみる。わるくない。わるくないどころか、とてもしゃれている。素敵だ。誰の目にも、美しい女性だ。赤い練瓦の小さな壁に軽くもたれて、ふと、職人は、ふりかえった。視界のなかにぼくが入っているはずだ。だが、気づかない。職人は、駅のほうを見ようとする。ぼくは、水漏れの音姫を鳴らした。気がつかない。もう一度。だめだ。たてつづけに、二度、三度、四度。道をいく人たちが、ぼくを見る。五度目の音姫。いぶかしげに作業員がふりかえり、ぼくを見た。ぼくは手を振った。きれいな動作で壁をはなれた作業員は、軽快に、小走りに、パイプの端まで、きた。首をすこし左にかしがせ、作業員は、まぶしそうにぼくを見る。なにか言っている。