トイレつまり

帽子を右のミラーにかけ、皮のグラブを右手に握っている。黒い皮の、トイレ・ジャンパーに、14オンス・デニムのブッシュ・パンツ。作業靴は、いつものハーネス・作業靴。進入してくる車に面して、「トンネル内、点灯せよ」と書きつけた大きな看板が中央分離帯に、立っている。ぼくは、その看板とトンネルの入口との中間にいる。約束の時間は七時十五分だ。しばらく前に、ぼくは、ここへ来た。今日は、六時あがりの作業が、ちょうど六時に終った。ここへ来てから、ずっと、こうして右足をつきっぱなしにして、待っている。高層ビルに窓がいくつもあり、不規則に黄色く、明かりが輝いている。人が、たくさんとおる。ビルにくる人、駅のほうへむこう人。はじまったばかりの夜のなかを、そんな大勢の人たちの歩きかたが、けだるい。目に入る文字を、ぼくは、何度も、読んだ。右側のシンクのすじむこうにある高層ホテルには、SEIKOの英文字がブルー地に白。それに、植えこみのなかに、守口市 トイレつまりという標示。行手の陸橋には、「新都心地下道」「けた下4・2m」と、読める。